東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1378号 判決
控訴人訴訟代理人は、原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。との判決を求め、被控訴人両名訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方代理人の事実上の陳述は、被控訴人両名訴訟代理人において、控訴人は本件昭和二十六年十月一日附贈与が債権者を害するものであることをその当時知つていた悪意の受益者である。控訴人の主張する如き、本件昭和二十六年七月二十一日の売買契約を当事者間で合意解除し、損害金の額とその支払期を別に定めたという事実はないと述べ、控訴代理人において、控訴人は訴外小浜藤市、同はつの間の唯一人の実子で、婿養子を迎えるためには多少の財産がなくてはという両親の思いやりから、本件不動産の贈与を受けたのであり、当時小浜はつのにおいて債権者を害することを知つていたことは否認する。また控訴人は当時かかる事実を知つていなかつたのである。なお昭和二十七年四月一日に被控訴人両名と訴外小浜はつのとの間で、本件売買契約を合意解除し、その際損害金の額を八十万円として、これを小浜から同年十二月末限り支払うことと約定したのであるから、被控訴人等主張の損害賠償債務は消滅した。と述べた外は、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人両名の主張する如く、昭和二十六年七月二十一日訴外小浜はつのと被控訴人両名との間に群馬県利根郡片品村大字戸倉字ネバ沢九百七番の三山林六十二町五反五畝十八歩(以下本件山林という)の地上にある取毀コンクリート建物全部の古鉄及び同地内に散在する古鉄等の売買が締結せられてから、同年十月十二日被控訴人両名が小浜はつのに対し右売買契約中の損害賠償額予定の約款に基ずく、金百五十万円の損害賠償債権を有するに至つたまでの経緯について、当裁判所は原判決理由中に説示のとおりの理由によつて、原審と全く同様に判断するから、ここに同説示の部分(原判決四枚目記録一七三丁裏二行目から同六枚目記録一七五丁表九行目まで)を引用する。但し「二十六年七月二十一日の売買契約は無効にするとの契約が成立した。」という控訴人の抗弁に対する判断の部分は、当審で控訴人が釈明した如く「本件売買契約を合意解除し別に損害金の支払を約したことにより被控訴人等主張の損害賠償債務は消滅した。」という抗弁に対する判断として引用する。当審における被控訴人新井勝之助本人尋問の結果は当裁判所の右判断の心証を強めるものであり、当審における控訴人本人尋問の結果は何等右判断の心証を覆すに足りるものではない。
而して昭和二十六年十月一日訴外小浜はつのが本件山林を控訴人に贈与し、同月四日被控訴人等主張の如くこれが所有権移転登記をなしたことは、当事者間に争なく、本件山林が小浜はつのの唯一ともいうべき、大部分を占める財産であり、その価格が百五十万円に満たないことは、原審証人小林正一の証言により成立の認められる甲第四号証、原審証人小林正一、同小浜藤市の各証言を総合して認められるところであり、小浜はつのが被控訴人等に対し前記百五十万円の損害賠償債務を負うに至つたのは、同年十月十二日で右所有権移転登記の数日後であつたとはいえ、前記認定したそれまでに至る経緯に成立に争なき甲第五号証、原審証人田畠光二、同小林正一、原審における被控訴人新井勝之助本人尋問の結果を総合してみると、その前同年九月下旬すでに、第三者たる訴外田畠光二から、本件売買の目的物につき所有権を主張して仮処分命令を申請し、目的物件を執行吏に保管せしめる旨の仮処分決定を得てこれが執行をなし、その後小浜はつのから被控訴人等に百五十万円の損害予定額及び支払期につき、緩和ありたい旨の接衝もなされた事実が認められるから、本件売買契約の約旨にいう第三者より追奪があつて、買主たる被控訴人等が小浜はつのに対し損害賠償債権を有するに至るべきことは、極めて確実になつていた際、右のような始んど唯一の財産で約定損害予定額に満たない価格の本件山林を、前示の如く贈与し、且つこれが所有権移転登記を了したのは、他に特別の事情の認められない限り、訴外小浜はつのにおいて債権者を害することを知つてなしたものであると、推断するを憚らない。然るに本訴に表われた全立証資料によるもこの推断を覆すに足る特別の事情の存することを認むに足りない。(当審における控訴人本人の供述中には、控訴人には義理の養子の兄妹があるので財産問題のおこるのを慮り、親が控訴人の分をはつきりさせておくため本件贈与がなされた旨の部分があるが、これのみではやはり右推断を覆すには足らぬ。)また控訴人は本件贈与を受ける際、それが小浜はつの債権者を害するごときことは全く知らなかつたと抗弁するけれども、これに副う如き当審における控訴人本人尋問の結果は、他の証拠資料に対比し措信し難く、その他に該事実を認めることのできる証拠がないのみならず、却つて成立に争なき甲第三号証及び当審における控訴人本人尋問の結果によつて認められる。当時控訴人はすでに年令満二十年に達しており、本件贈与者小浜はつのの唯一人の実子で、住所の片品村からあまり遠くない沼田町に居たという事実は、他に特段の事情の認められない本件にあつては、むしろ受益者としての控訴人の悪意を推測せしむるに足るものである。
以上の次第であるから本件贈与を、債務者たる訴外小浜はつのがなした民法第四百二十四条にいう詐害行為なりとして、これが取消を求め、その悪意の受益者たる控訴人に対し、本件山林に対する右贈与に因る所有権取得登記の抹消登記手続を求むる、被控訴人両名の本訴請求は認容せらるべきであり、これと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条第一項並びに第九十五条、第八十九条に則り、主文の如く判決する。
(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)